『Traveler』OFFICIAL INTERVIEW

「Stand By You」、「Pretender」、「宿命」と言ったシングルリード曲やカップリングナンバー、そして映画『HELLO WORLD』主題歌の「イエスタデイ」など7つものタイアップ曲はすでにお馴染み。さらにこの1年半の間に4人が培った新たなスキルや、アレンジメント、そしてサウンド・プロダクションをふんだんに盛り込んだアルバム曲が詰まった全14曲。すでに大ヒット曲となったシングルの意義を振り返り、今回初となる小笹、楢﨑楽曲についてなど、じっくりアルバムを検証します。

――1曲目の「イエスタデイ」は「宿命」に続き蔦谷好位置さんとタッグを組んだ曲ですね。

藤原これは「Stand By You」っていうEPを出すときに、チームの中に「Stand By You」リード曲反対派がいたんですよ。「曲が弱い、もう一声!」みたいな。でも全然悪いことじゃないんですよ。それで、「よし、次のリード曲にふさわしいであろう曲を作ってみよう月間」にて、生まれた楽曲の一つがこの「イエスタデイ」の元になる曲でした。

――歌詞は「人の評価を気にせず行こう」というテンションなのかな?と。

藤原そうですね。家族とか友達とか仲間みたいなものを守るときって、だいたい人のこと犠牲にしていかなきゃいけないので、このバンドでのし上がっていくって言っても、チャートの1位は1アーティストしか入れないわけだし。そこで苦悩していくっていう歌ではありますね。映画『HELLO WORLD』の主題歌でもあって、後々結びついてくるようなコンセプトでもあったなと思ってます。

――そして「宿命」です。アルバムの中においてどういう役割を担う曲になりましたか?

楢﨑アルバムを引っ張ってくれる曲になってると思うんですよね。それこそ「Pretender」を出して、その局面で次に「宿命」を出せて。曲のテーマも、質感みたいなものも違うんで、ヒゲダンがサウンド面でいろんなことをチャレンジできるとか、バックトラックに対して興味があるとか、バラエティに富んだバンドなんだなと思ってもらえるように引っ張ってくれたなと思います。

――お馴染みのナンバーが並びますが、次は「Amazing」です。改めてこの曲でできたことといえば?

藤原2番のBメロの後に“びっくり世界”みたいな、突然色が変わるっていうのはやってみたかったことではあるので、良かったと思います。歌詞的にもこのタイミングって、競争だ、競争じゃないみたいなことをすごく意識するというか、そういう時期だったように思いますね。やっぱりいろんな人が聴いてくれると、副作用としていろんなことを思う人がいて。かつ、音楽を競争レースみたいにする人がいて、僕も悲しいかな自分の人間性の中には「競争だ」って思ってしまうフシがどっかにあるからこそ、そういう呪縛にとらわれるんじゃなくて、このバンドとしてはグッドなミュージックを周りのことは気にせずただ追求して行ったらいいんじゃないの?ってことをしっかり言葉にしたかったんだろうなっていうのをこのアルバムの並びで聴いてるとすごく思う楽曲になってますね。

――そして今回のアルバムの一つのトピックとして小笹さんと楢﨑さんの作詞作曲曲が入っていることが大きいですね。小笹さん作の「Rowan」は意外な曲調でした。

小笹パンクを作ってくるんじゃないかとみんなが予想してくれてたんですけど、全然違って。これは僕が上京して1年目くらいの時にすごい引きこもって(笑)、ドープな楽曲を聴いてる時期があって、そういうものに憧れがあったので、今回1曲枠をもらえるということで、ちょっと好きにやってみようかなと。そこで日本のヒップホップのワークスでも僕がかっこいいなと思う曲をたくさん作ってらっしゃったThe Anticipation Illicit Tsuboiさんと一緒に作業しました。

――The Anticipation Illicit Tsuboiさんが手がけた曲で気になっていたのは?

小笹小笹:それまでtsuboiさんのワークスについてちゃんと調べたことはなかったんですけど、PUNPEEさんとかJ.J.J.さんとかKANDYTOWNとかがあって、僕が音がいいと思ったのは全部、tsuboiさんだったんです。それでレーベルの人に聞いたら、アレンジも全部やってくれるらしいよみたいな話だったので、そこまでお願いした方がヒゲダンの幅も広がるだろうなと思ったのでお願いしました。

――藤原さんは小笹さんの作ったメロディと歌詞をどう消化しました?

藤原結構キーが低くて、びっくりしましたね。で、歌録りの時はメンバーのディレクションで色々アドバイスをもらったりしながらやってみました。

小笹小笹:曲を作った最初のあたりから、さとっちゃん(藤原)の低めのミックスボイスみたいなのを使いたいなと思っていて。さとっちゃんにしたら地声で全然出るぐらいのキーなんですけど、そこをミックスで歌ってほしいなという思いがあって、それによって切なさとか侘しさ、セクシーさ、そういうところを出してほしいなと思ってディレクションしましたね。

――次の「バッドフォーミー」はまだアルバムに入ってなかったのか?と驚きました。作った時期の藤原さんの気持ちは今ではもう違いますか?

藤原基本的に自分の中で二基軸あって、自分の思ったことをメッセージにしていくタイプと、自分が思ってるっていうよりはメロが連れてきた言葉を大事にするタイプがあって。「バッドフォーミー」は割とメロが連れてきた言葉を大事にした曲なので、「通り雨みたいな恋心」とか、もうそのままメロディが連れてきただけなんです。こんな言い方してるとスピリチュアルな感じに聞こえるかも知れませんがほんとにそうで。

――確かに「通り雨みたいな恋心」のメロディは中毒性が高いです。

藤原そう言えばこれ、ヒゲダンがもしスカパラとコラボしたら?みたいなテンション感で作り始めた曲でした。なので“バッバーン”って、ホーンセクションから幕が開けていく、みたいなイメージでしたね。この時はほんとにスカパラとコラボしてえなと思ってて、まさかその後に叶うとは思えてなかったです。叶うといっともまだライブでしかやってないから、いつかは音源で一緒にコラボレーションさせてもらえたらなと思ってます。

――「最後の恋煩い」は「犬かキャットかで一生喧嘩しよう!」の系譜の曲かなと。

楢﨑ああ、確かに(笑)。そう言われたらそうかも。

――「生前贈与」なんてワードも出てきました(笑)。

楢﨑ははは。語呂いいですよね、歌いなくなる(笑)。

藤原なんだろな?割とフックラインが色々出てきて、「最後の恋煩いを始めよう〜」っていうラインがメロディと一緒に出てきてくれたので、そこからなんかパズルを埋めてくみたいに、「最後の恋煩いとはなんぞや?」というところからブレストしていって、考えたところはありますね。「生前贈与」もメロが連れてきてくれたんですよ。

――(笑)。脳のどこかにあったんですね。

藤原そういう仕事を僕が昔してたって話も絡んでくるんですけど。生前贈与の冊子、いろんな金融機関とかで置いてあるんですけど、だいたい、イラストなのか写真なのか別として、お年を召した方々の考えることだから当然そういう方々が出てくるので、そういう歳になっても、ま、喧嘩しいしい仲良くしましょうやっていう感じって、すごくいいなって感じですかね。あと、言葉の意味がすり減っていく面白さが人生にはあるというか。だいたい、喧嘩しとるときなんて、「もうこれっきりだ、絶交だ!」みたいなことを言うくせに、一日経つと「あの時はごめんね」みたいな感じになっていくわけじゃないですか。それって人間の素敵な機能だなと思ってて。

――「ビンテージ」は小笹さんのスライドギターの使い方が面白いです。

小笹あー、良かったです。もう吐きそうになりながら(笑)録ったので。だいたいこういう雰囲気だろうなってイメージはありつつもやったことがなかったので。4人でテデスキ&トラックスバンドをこの曲のRECの直前に見に行ったりして、やっぱりとても素敵だなと思ったんですよ。それで単純にギター弾くだけでは今まで出した曲とおんなじだし、おんなじとこに分類されて欲しくなかったので、新しいアプローチで楽器弾こうと思って。だからただスライドギターを使うっていうだけでも良かったんですけど、チューニングもオープンチューニングにしてて、それにしてしまった方がカントリー的な響きが出るし、できることが変わってくるのでオープンチューニングにして、スライドバー使って。どっちもほとんどやったことなかったんで、それによって吐くかと思いましたね(笑)。

――そしてちょっと穏やかな気持ちになったところに「Stand by You」がきて、後半のスイッチが入りますね。

藤原お馴染みの曲に僕ら的にはなってますけど、もしかしたら「Pretender」や、このアルバムから始まってくれる人にとっては新しい曲かもしれない。

――この曲を制作、発表した時期は一つの節目の時期だったわけで。

藤原確かに。個人的にはこの曲をあのタイミングで出しておいて良かったなっていうのは正直なところであります。序盤に話したように「Stand by You」リード曲、反対派と賛成派があって色々話してみて、代替の曲も作ってみたけど、やっぱ、その時一番やりたかったことを変えてまでやってくっていうことはちょっと違うっていうか。もちろんメジャーデビューして2作目なんで、そこで売れる曲を出すっていうことはチームのビジネスとしてはすごく大事なことではあると思うんですけど、敢えて、そういうことじゃなくて、今、みんながこれすごいかっこいいね、いい音楽だねって一番思ってるものをしっかりやるようにしていかないと、そこから先の指針はどこにあるんだ?って話で。バンドもよりクリエイティヴにやっていくためにも、この曲をリード曲で出したいなっていう気持ちが強くて。で、結果的に出してみるとライブでみんなが歌ってくれて、オーディエンスとバンドをつなぐ大事な曲になったので、その曲が去年の秋頃に出せたっていうことは、このバンドにとっては大事な一歩だったんだなっていう風に今振り返ると思います。

――この曲が出た時、松浦さんの新世代ジャズ的な感じとか、ビートに意識的なバンドなんだなって思った記憶が未だにあります。

松浦レコーディングした音源版は結構、カチカチ叩きまくる感じで、またこれをライブでどうやろうかーーライブアレンジ大好きバンドなので、そういう部分でもほんとにこの曲は素敵な景色を今までのライブでもすごい見せてくれたし、多分これからも見せてくれると思いますね。

――次の「FIRE GROUND」もライブの鉄板ですね。

藤原こーれはもう火柱ですね!ライブでたまに上げますけど、熱いんですよね、あれ。すごいびっくりしました。初めて体験した時に。「うわー!こんなに熱いんだ?」。

――武道館のスタンドでも気温上昇しますからね。この曲はハードロックかつファンクっていう、ダサさ紙一重で最高にかっこいいです。

藤原ダサさちょっとありますね。その感じが結構僕は好きです。こないだ面白かったのが、お寿司屋さんに行ったら、職人さんがこの曲を「元気出したい時聴いてます」と言ってくれてて、それ訊いて嬉しかったところありますね。当然、スポーツとかいろんな業界でこの曲で歌っているようなことは起きるというか、だからこそ、なんかひっくり返して己の道を進んで行きたいっていう決意はどの世界でも大事なものだし、そういうものを持ってる人が輝いて見えるような気がするので。そういう風に伝わってたっていうのが嬉しかったなっていう経験をしました。

――修行期間というのは想像を絶するものがあります。

藤原でしょうね。このバンドにとっても割とこの曲で歌ってるようなことは歴史としてあって。仕事やめて上京する、みたいな時に「ほんとに上京なんかして大丈夫か?」とかいろんなこと言われましたけど、俺たちはやりたいからやるんだと。やりたいから行くんだっていうことがすごくここにも繋がってきてるのかなっていうのはありましたし、この4人の日々があるからこそ、ライブで自信を持ってこの曲を歌える、そんな気がしてます。

――そして楢﨑さん作詞作曲の「旅は道連れ」はまた全然テンションの違う楽曲です。

楢﨑ちょっとハッピーな感じのテンションというか、現場の空気感も入れたかったし。あと、なんかガーってヒゲダンが大きくなってきた中でもちゃんと隙を見せておきたいなというか、「脇甘いっす、自分」みたいなところを(笑)表現したくて作りました。

松浦ならちゃんの人柄がそこに出てる感じがして。スタッフとかにも気を配ってっていうか、「全員でやろうぜ」みたいな、ライブ前のハグとかも、メンバーだけじゃなくてスタッフ全員に「今日よろしくお願いします」って感じでハグしに行くんで。そういう仲間思いの部分とか、一緒に音楽楽しくやってこう、みたいなところがすごい楽曲に出てて。楢﨑だなぁと思いますね。

楢﨑………そうですか。

一同(爆笑)。

――「Pretender」という楽曲の存在自体についてはいかがですか?すごく大きな曲になりましたが。

楢﨑できた時の印象は「あ、いい曲だな」っていうのがあって、ここまでいろんな人が「いい曲だな」って言うとは思ってなかったんです。でも人に評価されたからいい曲になったわけではなく、最初からいい曲だなと思ってる自分の感覚をずっとこの曲には感じたいですね。

藤原それを言ってしまうとどれも同じぐらい最高に大事な曲で。ただバンドというものを俯瞰で見たときに、次のステージに連れてってくれるきっかけになったって事実がそこに転がってるだけかなって。

松浦確かに。「Pretender」で僕らを知ってくれた人がアルバムを通して聴いて、僕らのまた違った良さを見つけてもらえたらいいなという風に思いますね。

――そして「ラストソング」は藤原さんの本音がすごく伺えます。

藤原ああ、そうですね。これ一番思うのは、いろいろ終わってしまうことへの悲しみみたいなことで。ま、ライブが終わる時もやっぱ少しの寂しさと充実感があって、余韻があって。それはいい曲ができた、アルバムができたってなったらRECの日々は一旦落ち着くし、MV撮影も海外行って帰ってくれば、それで一旦一区切りだし。なんかそういう区切りの部分についての歌ですね。

――そこに寂しさを感じるということはこの人は相当執着があるんだなというか。

藤原執着の権化ですね。この曲もう3年前ぐらいにできたんですけど、歌詞を変えていくうちにそういう思いにどんどんなっていった感じはありましたね。

――そして最後はタイトルチューンと言えるのでしょうか。

藤原アルバムタイトルが『Traveler』で決まってて、この曲は「Travelers」なので、ライブにつながっていくところでもあるんですけど、この曲が最後だけど頭って感じにしたくて。「またね」っていうものがあるからもう一回旅が始まる訳だし、僕らもこのアルバム出したらまた次の音楽旅が始まるんで。そう考えたら最後の曲だけど、それが回り回っていくっていうのがよくない?と思って。アルバムのあとがきだけど、前置きっていうポジション。このアルバムをディスクでリピートにするとこの曲が終わったあと、いい余韻が残って、また「イエスタデイ」が始まる、なんかそういうアルバムにしたくて。アルバムが線だとしたら、線を円にするための接着部分になる曲というイメージですね。

――「Traveler」というタイトルだけに実際の移動も気持ちの旅もいろいろあったと思うんですけど。どういうアルバムですかね?いろんな体験の質量がこれまでとは違う?

藤原ま、なんかこう見返してみるとほんと充実した日々を送ってたんだなってことがわかる旅の記録って感じですかね、僕的には。なんかアルバムとしていいものを作るっていうのももちろん大事なことだと思うけど、1曲1曲いいものを作る方が僕の感覚には近くて。それが14曲並んだよって。フォトアルバムみたいな、その時々の自分たちのやりたいことを切り取って作ってって、それをパッキングして世に出して、それが最後に一旦この10月9日のタイミングで並ぶということだと思います。

ライター:石角友香